金曜日, 6月 18, 2010

「危険はない」と言うには勇気が要る

 前回、LZH書庫ファイルの脆弱性問題が騒ぎになっていることを述べた。作者が「危険だ」と言っているから危険に違いないと思っていっしょになって「危険だ、危険だ」と騒ぎ立てることはたやすい。もし、LZHのヘッダ処理の脆弱性を突くファイルがウィルス対策ソフトの検疫をすり抜けたためにウィルス感染事故が本当に起こったら、「危険だ」と言っていた人の正しさが証明されることになる。一方、ウィルス感染事故が起こらなくても、「危険だ」と言っていたことが誤りだということにはならない。だから、どちらにしても、「危険だ」と言っている人には、後になって誤りを責められるリスクはない。
 しかし、私は騒ぎに逆らって「危険はない」と言った。これは勇気の要ることである。もしウィルス感染事故が起こったら、私の誤りが証明されることになる。私は、言ったことの誤りを後で責められるリスクを背負っているのである。
 そんなリスクを背負ってまでなぜあえて「危険はない」と公言したか。情報セキュリティに詳しくない人が必要以上に危険を恐れるあまり、LZH書庫という優れた成果によってもたらされる利益を失ってほしくないと思ったからである。みんながスパム問題から解放されてほしいと願ってS25R方式を発表したのと同じ気持ちからの行動である。
 「危険はない」と公言したことは、会社で判断を迫られたことの成果である。「危険だから社内ではLZH書庫の利用を禁止する」と決めるのはたやすい。しかし、LZH書庫として提供されている、業務に役立つソフトウェアの入手を禁止することによる不利益をどうするか。それは社の情報セキュリティのために本当に甘受しなければならないことなのか。私は、考えに考えた末、「ウィルスを警戒する通常の注意を守っていればよい」と結論付けて、LZH書庫がもたらす利益を守った。
 「危険はない」と言ったことにもし間違いがあれば、このブログでも社内でも批判を受ける可能性がある。しかし、今のところ批判はない。

 もう一つ、私が会社で「危険はない」と判断した事例を紹介する。
 私の会社では、ウィルス対策ソフトでのフルスキャンを少なくとも週に1回実行するように決めていた。フルスキャンでは、メモリのスキャン、ブートセクタのスキャン、全ファイルのスキャンが行われる。全ファイルのスキャンは何時間もかかり、CPU使用率が上がって仕事にならないことがある。
 私は、全ファイルの定期的なスキャンは本当に必須かを考えた。ワクチンが間に合わずにウィルスファイルがディスクに入り込むことはある。しかし、定期的に全ファイルのスキャンをしなくても、リアルタイムの検知を有効にしておけば、ワクチンができた後にウィルスが活動しようとした時には必ず検知される(このことはベンダーに問い合わせて確認した)。ワクチンが間に合わなければ検知されないが、そうであればどのみち全ファイルのスキャンでも検知されない。つまり、全ファイルのスキャンをしなくてもウィルス発病のリスクは上がらないのである。全ファイルのスキャンをしないためにウィルスファイルがディスクに残存し続けるのは危険だと思うのは、感覚的なものにすぎず、論理的な根拠はない(リアルタイムの検知を必ず有効にしている限り)。
 このように検討して、「全ファイルのスキャンを行わないように設定してもよい」とルールを改定した。
 セキュリティを心配する社員に不安を与えないように、危険はないということを筋道を立てて説明した。この判断も勇気の要ることだった。これにより、社員は、全ファイルのスキャンで仕事にならないという不利益から解放された。

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