日曜日, 3月 09, 2008

がんばりすぎない

 佐藤さんのブログ記事からリンクされている「最近のspam送信者が進化している件について」という記事では、正当なMTAと区別できない挙動をするスパムアクセスが増えていると書かれている。これを読む人は、スパムの被害は今後もどんどん増えるだろうと悲観的な気持ちになりそうである。しかし、スパムアクセスの総数はどのくらい増えたのか、正当なMTAと区別できないスパムアクセスの割合が増えているのかどうかという定量的な議論は書かれていない。スパム対策を考える上では、現象を統計的にとらえ、何が重大な問題なのかを議論すべきである。さもないと、対策の優先度を考慮せず、実はわずかな割合しかない巧妙なすり抜けスパムを阻止しようと必要以上に躍起になり、労力の割には効果が少ないということにもなりかねない。
 私のサイトで観察する限り、ボットからのリトライしない(あるいは、リトライのたびに送信者アドレスが変わるため、正常なリトライとして検出されない)スパムアクセスが今なおほとんどである。前回の記事で述べたとおり、グレイリスティングを突破しそうなスパムメッセージは0.6%ほどしかない。それも、ログを見て気付いたらすでにアクセスが止まっていたものばかり。グレイリスティングはだませても、素のS25R方式を運用するメールシステム管理者をだませるものはなかった。
 また、S25Rをすり抜けて着信するスパムの割合は相変わらず少ない。私のサイトで2月10日から3月9日19時までのログから拒絶ログソーティングスクリプトでカウントした推定メッセージ数(宛先の正しいアクセスのみを抽出したもの)は1571、この期間に受けたスパムは14通だったので、ここから素のS25R方式による阻止率を計算すると、99.1%となる。ポーランド、ロシア、チェコの国ドメインを丸ごと蹴飛ばす反則技を使わなかったとしたら着信は20通で、阻止率は98.7%となる。2006年7月の統計では、宛先の正しいスパムの阻止率はホスト数で数えて97.4%だった。ホスト数で数えてもメッセージ数で数えても阻止率にはあまり違いがないことがわかっているので、一昨年よりも良いデータになっていると言える。ボットからのスパムアクセスが増えるにつれて、S25Rによる阻止率は高くなるようである。勤務先でのBecky!によるフィルタリングでも、最近の判別率は98~99%、見逃しは一日平均1通程度で、業務にはまったく支障が生じていない。
 メールサーバを経由するスパムはS25Rをすり抜けるが、メールサーバがメールトラフィックのボトルネックになるので、そのようなスパムはあまり増えないだろう。そんなわけで、私は悲観的な気持ちにはなっていない。
 すり抜けるわずかな割合のスパムに悲観的になり、それをゼロに近付けようとがんばるほどに、対策コスト(メールシステム管理者の頭脳と時間の消費を含む)は急激に増大する。スパムの受信が業務に支障がないくらい(一人一日数通程度)に減ればそれ以上がんばらないという割り切りも必要だと思う。

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