月曜日, 1月 21, 2008

日本の美徳

 前回、善良な送信者に迷惑をかけまいという気配りの心が私にあったからS25R方式は実用的なものになったと述べた。気配りの心を自分の美点と自慢するつもりはない。むしろそれは、たいていの日本人が持っている、日本が世界に誇れる美徳だと思う。
 ロシアのmail.ruは、初めてメールを送ってくるホストをことごとく応答コード「550」で受信拒否し、送信者にホワイトリスト登録申請を要求している(2007年1月13日「厳しすぎる防御」)。インドのedkal.comは、正当なメールを誤判定して応答コード「550」で突き返している(2007年11月4日「失礼な受信拒否」)。アメリカのieee.orgもedkal.comと同じことをやっていることがわかった。

<***@computer.org> (expanded from <***-outgoing>): host
    hormel.ieee.org[140.98.193.224] said: 554 5.7.1 Message scored extremely
    high on spam scale.  No incident created. For details, send to
    postmaster@ieee.org. You can also send a plain text message to the
    recipient and request adding your address to his/her UCE whitelist. (in
    reply to end of DATA command)

 スパムを受けないためには正当なメールを間違って、あるいは故意にバウンスさせてもかまわないというやり方は信じられない。私だけでなく、たいていの日本人は同じことを思うのではないだろうか。この荒っぽさが大陸民族の文化というものなのだろうか。
 日本人ならこんなことはしないだろう。正当なメールを必ず受信できる完璧さをユーザーが求めるからということもあるが、メールシステム管理者は、メールを受信できないと困るユーザーに気配りし、善良な送信者に迷惑をかけないようにとも気配りする。「和を以って貴しと為す」という文化の中で育った日本人にとって、それはごく当たり前のことである。日本人の島国根性には「出る杭は打たれる」などの悪い面もあるが、他人への気配りは日本の美徳(*)だと思う。
 韓国製のOptPlusに実装されたバウンシングバック認証方式のコンセプトも、私には理解しがたい。善良な送信者に認証手続きの手間を要求することを失礼だとは思わないのだろうか。スパマーに送信者アドレスをかたられた被害者にバウンシングバック認証要求メールを殺到させることを申し訳ないとは思わないのだろうか。自分がスパムの被害から助かりさえすればよいという観念も大陸文化なのだろうか。
 日本の美徳をわきまえた日本人にはOptPlusは売れないと思う。OptPlusを買っている人は、S25R方式を知らないに違いない。両方を知る人ならきっとS25R方式を選ぶ(なにしろ無料だし)。日本の気配りの文化をわきまえず、OptPlusが日本で売れると思って輸入したベンダーのビジネス感覚が、私には理解できない。
 S25R方式は、注意深く運用すれば、受信者にも善良な送信者にも迷惑をかけない。メール送信サーバにメールを一時滞留させることはあるが、送信者を困らせることはないし、手間をかけさせることもない。正当なメールの受信が遅延することはあるが、ちゃんと届く。私は、ユーザーへの気配りに根ざしたS25R方式を日本発のアイデアとして誇る。そして、開発者の私を育んだ日本の文化を誇る。

(*) ラフカディオ・ハーンの来日後の人生を描いたテレビドラマにこんなシーンがあった。ある女性が、夫の死のことを話しながらほほえんだ。ハーンは、悲しいのになぜ笑うのかといぶかしく思った。後に彼は、それは自分の悲しみを相手に押し付けまいとする気配りで、日本の美徳なのだと理解した。

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