日曜日, 1月 20, 2008

僕って天才?

 日経BP社・ITproの「記者のつぶやき」に「昨年は「XP上で動くICAサーバー」と「S25R」に感動」という記事がある。1月17日の掲載である。S25R方式に対していただいている賛辞を要約すると、次のとおりである。

S25Rという創意工夫は、言われてみれば当たり前のことだが、普通の人には発想することのできない天才的なひらめきだ。記者がこれを知ったのは2007年も後半になってから。UNIXシステム管理をライフワークとしてきた記者が知らなかったのはまったくの不覚。受信側メールサーバにSMTP接続をしてくるクライアントがメールサーバなのかエンドユーザーコンピュータなのかを知るすべがないという思い込みがあった。逆引き名の文字列で判別しようという発想の転換が、まさにコロンブスの卵のごとき世紀の大発見なのである。

 天才的とまで絶賛されると気恥ずかしい。発想のきっかけは2006年10月21日「無精者の勝利」に書いた。思い付いたのは2003年5月。スパムが急に増え始めたのがきっかけだったが、スパムアクセス数はまだ今の1/10くらいのころだった。postgreyもDNSBLも知らなかった。Postfixが備える機能を利用して効率的にスパムをはじく方法を工夫した。大して高いスキルのない自分でもできる方法を考えたのである。
 個人用メールサーバを運用していたことが幸いした。組織サイトでこんな実験は危なくてできない。個人サイトでありながら、8個ブロックのIPアドレスをもらって逆引き権限の委譲を受けていることも幸いした。ドメイン管理者ならサーバにどのような名前を付けたがるかという思考ができた。S25Rに引っかかるお仕着せの逆引き名がISPから割り当てられる、IPアドレス1個の安い接続サービスを使っていたら、「そのようなサーバを拒否しても、ホワイトリストで救済すればよい」という発想はしにくかったかもしれない。
 「スパムの送信元には逆引きできないものが多いので、それを蹴ってみよう。次に、逆引きできても逆引き名がIPアドレスをそのまま反映したものも多いので、それも蹴ってみよう」――ここまでは、ほかの人でも容易に発想できたと思う。
 私がオリジナリティを誇るとすれば、その後の段階である。逆引き名からアクセス元を高い確度でエンドユーザーコンピュータと推定するための規則をわずか六つの正規表現に類型化した。これは、世界の誰もやっていなかった。数千回に及ぶ不正メールアクセスの逆引き名から単純な法則を見出したのは、私の特異な能力によるものかもしれない。これを「天才的」と褒めていただけるなら、私は喜んでお褒めを拝受しよう。
 これだけでは、S25R方式は使い物にならなかった。私は、誤判定される正当なメールを受信し損なわないために最善を尽くした。その方法も発表した。それは簡単な仕事である。ログの監視とホワイトリスト登録という単純作業を継続する忍耐があればよい。それは天才的な成果ではない。ただ、その背景として、善良な送信者に迷惑をかけまいという、他人への気配りの心が私にあった。だから、S25R方式は多くの人に受け入れられる実用的なものになった。それも私は誇ってよいことだと思う。
 そしてあと一つ、私が誇れるのは、スパムに困っている人々とのコミュニケーションを大切にしていること。質問には必ず答え、問題の解決のために支援する。また、善意の協力者から寄せられるホワイトリスト情報を感謝して受け取り、それをほかの人たちのために公開する。こうした活動を地道に続けている。このことにかけては私は無精者ではないのである。
 “天才的なひらめき”も、それだけで世の中に役立つものになるというものではない。「他人が使えるか」、「他人が困らないか」という、他人を思いやる思考も必要なのである。

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